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仙台高等裁判所 昭和29年(く)44号 判決

本件抗告の理由は、記録に編綴の代理人弁護士A名義の抗告状と題する書面の記載と同じであるから、これを引用する。

本件抗告理由の要点は、抗告人に対する本件逮捕状及び勾留状記載の窃盗の事実と本件起訴状記載の賍物牙保の事実とは同一性がないのであり、しかも前者について起訴がなかつたのであるから、抗告人は起訴前の勾留期間の満了と共に当然釈放せらるべきであつたのに、検察官も勾留裁判官乃至公判担当裁判官も重大な過失によりこれに考慮を払わずに抗告人を釈放せず、引続き右勾留を更新して不当勾留をなしたものである、しかるに原決定は右事実の同一性があり、勾留の被疑事実に対して起訴が行われたものとの前提に立つてなされているので根本的に誤つており、延いてその説明において誤りをおかしており、のみならず原決定の適用した刑事補償法第三条第二号は違憲で適用すべきものでなく、勾留日数の全部につき補償をなすべきものであるというにある。

按ずるに、取寄にかかる本件訴訟記録(佐々木貞―抗告人―外三名に対する仙台地方裁判所昭和二十七年(わ)第四〇号窃盗賍物牙保等、佐々木貞外四名に対する同裁判所同年(わ)第一六四号窃盗、佐々木正孝外四名に対する同裁判所同年(わ)第一六三号窃盗等、栗田庄八に対する同裁判所同年(わ)第一〇九号窃盗、高田健一に対する同裁判所同年(わ)第二一一号窃盗、桑野勇に対する同裁判所同年(わ)第二五四号窃盗、高田健一外一名に対する同裁判所同年(わ)第三二一号窃盗各被告事件の併合事件の記録)によると、抗告理由も主張する如く、裁判所も検察官も所論勾留状記載の被疑事実は起訴状記載の訴因の一つたる所論賍物牙保罪の事実と公訴事実としての同一性を有するとの見解の下に、右勾留は起訴後も引続き有効なものとしてその更新決定を繰返していたものであることが明かである。故に、勾留状記載の被疑事実と右訴因との間に事実の同一性があるか否か、即ち右勾留が起訴事実に対する勾留として適法にして有効なものであるかどうかは別として、それが起訴事実についての勾留として取扱われ、それによつて起訴後も抗告人が拘束されていたものであることは明かである。

ところで、刑事補償法の解釈としては、未決の抑留の処分が、仮に不適法又は無効なものであつても、それが当該事件のための刑事訴訟法上の処分(訴訟行為)としてその成立を認め得るものである以上、その抑留が補償の対象となるものと解すべきである。けだし、そもそも刑事補償法はその第一条第一項の抑留又は拘禁に対する補償の要件としてその拘束(抑留又は拘禁)が瑕疵なきものであるかどうかを区別した規定を設けていないばかりでなく、この補償はもともと客観的には無罪であつて逮捕も勾留もさるべきでない者が受けた身体の拘束、即ち客観的には違法な拘束を受けた者に対し、簡明でかつ経済的な求償の途を拓いたものである趣旨に鑑みれば、その拘束が刑事訴訟法上の処分として瑕疵あるものである場合には瑕疵のないものである場合に比べて一層強い意味で補償を与えるべき理由こそあれ、これを拒む理由がないからである。そうだとすれば、本件で補償の要否の判定及び補償すべき拘束の期間の判定には、所論の勾留が訴因たる賍物牙保罪に対する勾留として瑕疵なきものであるかどうかはこれを問う必要がないものといわねばならない。そして、このことは右賍物牙保罪についての身体の拘束が刑事補償の対象となるかどうかを判定するに当つて右の如く解すべきだけではなく、一の起訴事実について勾留状が発せられているため、他の勾留の必要ある起訴事実に対しては勾留状を発することなく、右勾留状による勾留を以て起訴事実全般の勾留として取扱つた場合に、その起訴事実全般について勾留が行われたものと認めるかどうかの問題に関しても同様で、この場合でもその発せられている勾留状の瑕疵の有無はこれを問うべきではないのである。

以上の次第で、原決定が前記賍物牙保罪についての起訴後の身体拘束を勾留として刑事補償の対象としたことが正当であることはもちろん、その身体拘束を起訴事実全般のためのものとし、本件が刑事補償法第三条第二号に当るものとしたことは何等誤りではない。

もしそれ、右勾留状を起訴後も有効なものと認めて取扱つたことが仮に誤りであり、それが裁判官、検察官の過失によるものだとしても、その過失が、補償すべき拘束の期間を判定するのに参酌せられるべき謂はなく、それが参酌されるとすれば、たかだか、補償の額を算定する際のことに過ぎない。

以上の次第で、抗告理由が本件勾留状記載の被疑事実と起訴状記載の訴因との同一性の欠缺を力説し、これを前提として原決定を論難する主張は、その同一性欠缺についての主張の当否を判断するまでもなく、すべて採用することを得ない。

最後に、抗告理由の刑事補償法第三条第二号は憲法第四十条に違反する旨の主張について考察する。憲法第四十条の「法律の定めるところにより云々」とは、抑留又は拘禁という事実と無罪の裁判という事実とがあつた場合にも法律によつて補償請求権の発生を拒むことを認めるという趣旨でないこと所論のとおりである。しかし、刑事補償法第三条第二号の規定する「一個の裁判によつて併合罪の一部について無罪の裁判をうけても、他の部分について有罪の裁判をうけた場合」には、その両者の勾留に対する内在的関係の度合によつて、例えば無罪になつた部分の罪が軽微でそれだけでは勾留に価しなかつた場合には実質上拘禁との関係においては無罪の裁判がなかつたものといえるのであつて、かくの如くにしてその両者の勾留に対する内在的関係の度合によつて補償の全部又は一部が拒まれるのは当然のことであつて、このことは何等憲法第四十条の趣旨に反するものではない。そして、抗告人は単独又は共謀にかかる合計六十六個の窃盗の起訴事実中六十三個の事実につき有罪の認定をうけ懲役六年(未決勾留日数中二百日算入)に処せられたものであるところ、記録に徴すれば、原決定の説明する如く検察官が自ら抗告人の取調を開始した昭和二十七年二月一日には前記賍物牙保以外の窃盗の起訴事実の部分(判決で有罪とせられたもの)についても抗告人を勾留すべき理由が生じていたものと認め得られるし、この窃盗の起訴及び追起訴の事実の部分は原決定の説明する如くその件数六十六に達する事犯でその取調の経過と右賍物牙保と対比しての事実の軽重とを考量すれば、これらの窃盗の事実についてもその取調の当初から抗告人を勾留すべき必要度が極めて髙かつたものと認むべきである。そうだとすれば、同年二月一日以降同年十月十三日までの間の抗告人の勾留についてはこれを補償すべき理由が存しないが、同年一月十九日抗告人に対し前記賍物牙保と同一性のあるものとされた窃盗の被疑事実について逮捕状を執行してから同月末日までの間の抗告人の抑留拘禁は主として無罪となつた右賍物牙保の事実につき行われたものと認められるから、この期間に限り補償をするのを相当とするのであつて、右と同旨に出でた原決定は正当である。

以上の次第で、本件抗告はその理由がないから、刑事訴訟法第四百二十六条第一項後段に則りこれを棄却すべきものとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 鈴木禎次郎 裁判官 蓮見重治 裁判官 細野幸雄)

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